マニラ在住の息子の転職先が業界シェア世界No.1の欧州企業に決まりました

 マニラ在住の我が家の長男。大学を卒業して昨年からハローフレッシュという世界十数カ国で食材宅配サービスを行うドイツ企業のフィリピン子会社で働いていました。

昨年、日本でもサービスインした時に早速利用してみたところ、注文は全てオンライン、食材やレシピはとても良いのですが、そのぶん価格はやや高め。ターゲットは安全な食材をお洒落に美味しく食べたいという意識高い系といった印象でした。

ヨシケイやオイシックスにCOOPなど古参ライバルがひしめいている日本で、ユーザーは「注文は紙のほうが便利」という世代が多いなか、まともに戦えるのか懸念していましたが、心配は見事的中。ハローフレッシュはたった1年で日本から撤退を表明。フィリピンからサポートしていた日本語チームはとうぜん解体。わずかヶ8月間で息子は解雇となりました。


突然、無職になったもんだからさあ大変。ましてや日本とは勝手が違う海外です。絶体絶命のピンチ!と思いきや、1ヶ月足らずであっという間に転職先が決まりました。

企業と個人をマッチングするLinkedInというアプリで求人を見て色々な企業とコンタクト。アカウントに経歴はまとめてあるので、いちいちエントリーシートを送るみたいな面倒な手間は無し。求人探しから簡単な連絡までならアプリ上で完結します。企業側も色々な機能があるので人材探しの手間が省けます。
フィリピンでもLinkedInは普及してるのかと思ったら、息子によると大卒の就職の半分ぐらいはコネだそう。大学まで進むのはほとんどが金持ちですから。しかし国立大学は学費無料(フィリピン人のみ)なので、生まれが貧しくてもチャンスは平等に与えられています。日本と違い国が教育に予算を掛けているんですね。

面接では「フィリピン人はパーティー好きでイベント多いけどダンスとか踊れる?」という質問があったり、日本語試験では「あれ?君は日本人か。じゃあ日本語喋れるよね」と言われて残り時間はずっと雑談だったり。息子から聞く限りかなりゆるい感じです。日本で就活中の学生聞いてる?君たちが勉強を疎かにして1年がかりで神経をすり減らしてやってる作業がスマホで1~2週間だよ。

息子の方から希望条件を提示したところ、最終的に候補は以下の3社に絞られました。

・ヘンケル(ドイツ)売上2.6兆円
接着剤の売上で世界一。DIY好きにはお馴染みのLOCTITEの会社です。その他にも洗剤やヘアカラーも販売しています。SYOSSもヘンケルの商品です。

・ネスレ(スイス)売上11.2兆円
皆んな知っているキットカットやコーヒーでお馴染みの会社。コンソメの素のマギーもネスレの子会社。アジア旅行に行くとネスレの強さに驚かされます。新しい市場の開拓は手っ取り早くM&Aで、時には敵対的買収も成功させて企業規模を拡大しています。チョコレートとコーヒー売って儲けた金で会社を買って今やグループ売上11兆円。マーケット経済好きならネスレの歴史を調べてみると面白いですよ。株主にアレコレうるさく言われないように、この規模で上場はスイス証券取引所のみというのも賢い。

・シェル(イギリス)売上33.4兆円
言わずと知れたオイルメジャーの一角。今では石油だけではなく総合エネルギー企業です。まあとにかくでかい会社です。売上はもはや小さい国の国家予算。しかも基本的には地面から湧いてきた石油を売るだけという超優良企業。

とんでもない大企業ばかりで驚きました。ネスレとシェルは売上や純利益で世界で上から○番目という規模です。

どの会社も求人条件はだいたい同じで、

①財務、会計の学士、もしくは数年間の実務経験者
②マニラ在住
③英語が話せる
④日本語が話せる

2つや3つ揃っている人材は探せばどこにでも居そうですが、4つ全て揃うとなるとなるとなかなかレアキャラのようで、求人側にとっては「レアポケモン見つけた!」みたいな感じですかね?色々とオファーがあったのはそのため。特に重宝されるのは世界でもトップレベルに難解な言語である日本語が話せるということで、何かしらのスキル+日本語という求人は多いようです。なんてったって日本は世界第3位の経済大国ですからね。

就職活動中に知らない番号から何回も電話が掛かってきていて、あまりにもしつこいから出てみたらネスレの人事だった、みたいな。それぐらいゲットしたいレアポケモン扱い。いまどき英語が話せるだけじゃ仕事にならないと思っていましたが、まさか日本語が話せることが仕事に繋がるとは。日本で就活中の学生聞いてる?日本語が話せることは貴重なことなんだよ。あとは君のプラスアルファの特別なスキルってなぁに?

日本法人だと誰でも知っている有名大学卒しか入社できないような企業ばかりですが、あっという間にあっさりと3社とも採用となりました。

いくらレアポケモンといえども、なぜ簡単に特大グローバル企業から採用されるのかというと、終身雇用を維持するための日本型のジェネラリスト採用と違い、フィリピンの労働環境は世界標準のジョブ型だからです。自分の得意なことに特化できる反面、自ら学んでより良いポジションを獲得しない限り、仕事はずっと変わらず給料の伸びは遅いです。そして仕事のパフォーマンスが悪ければすぐに解雇です。
世界ではジョブ型が標準ですが、日本でも最近になって大手を中心にジョブ型を導入する企業が増えてきていて、NTTも2023年春からジョブ型雇用を導入するそうです。どちらにもメリット・デメリットありますが、ジョブ型のほうが色々と効率は良いです。LinkedInをパトロールしてみても、まだまだ日本企業の求人は少ないですけど。


会計なので仕事内容はどこも似たようなもんだし、給与と待遇を比較して息子が選んだのはヘンケルでした。最終面接から採用メールが来るまでたったの15分だったとか。今日は木曜日ですが、先週末に採用通知が来て月曜日には返事をして、すでに契約書類にサインして健康診断とかを受けているそうです。ビジネスはスピード命。日本で就活中の学生聞いてる?お祈りメールが来ないことを祈りながら何日も待たなくてイイんだぜ。

ヘンケルのオフィスはNex Towerというフィリピンのウォール街と呼ばれるマカティの中心に位置します。2018年に建ったばかりのめっちゃカッコいいビルです。余談ですがシェルのオフィスはこのビルのすぐ裏。父としては「息子はオイルメジャーで働いてます」ってネタで言ってみたかったですけどね。息子の住んでいるマンションから1.5km徒歩20分です。勤務体系はハイブリッドなので出社は好きなようにすれば良いそうです。ちなみにマンションにはコンシェルジュが居てプールとジムもあります。家賃は約45000円。例えるなら青山のタワマンに住んで六本木の会社で働いてるみたいな感じでしょうか。

給料は日本語が喋れるというランゲージプレミアムだけで基本給に80%上乗せですからマニラではなかなかの高給取りのようです。日本円に換算すると420万円ぐらいなのでマニラで余裕のある呑気な生活が出来る額です。大都会のタワマンに可愛い彼女と同棲して、オフィスまでは徒歩20分のグローバル企業で働いてる高給取り。我が息子ながらどんだけリア充なんだよ!

国民の平均年齢が25歳(日本は49歳)という人口ボーナスタイムのフィリピンに生活拠点を移し、日本人の特性を生かして働く。まさに人生イージーモードでフルブースト。
大学留学前に「物価の安いフィリピンに住んで、待遇の良いヨーロッパの会社で働けたら理想的だよなぁ」と話していたことをキッチリ実現してくれました(前もドイツの会社でしたが大学で学んだことを活かせない職種だったので父的にはやや残念でした)。

語学留学から考えたら、なんだかんだで7年がかりで父親のプロデュースが予想を超えてバッチリ決まって本当に嬉しいです。もちろん一番は本人のヤル気と努力があってこそです。高校時代は英語の偏差値40チョイだったのに語学留学から帰国したら映画やゲームの言語設定を変えて自分なりに勉強していたり、社会勉強のために証券口座を開設させたら世の中のお金の仕組みに興味を持ったのか会計学部に途中編入したのも息子自身の希望からです。そもそも単身で渡航して誰も知り合いの居ない海外に何年も生活しているのもたいした神経だと思います。そばに居てくれている彼女にも感謝。

適切なタイミングで適切なフィードを与えれば人は大きく成長するんです。


ビザの関係で近々3年ぶりに一時帰国をするはずなので、可愛い息子のためにとっておきの美味しい食事と酒を用意して待っております。なんて言って秋ぐらいにはまた転職しているかも知れませんけどね。とりあえず今は素直に喜びます。



今までの経緯は過去の記事をご覧ください

留学から卒業までの話はこちら

コロナ禍でビザの切り替えに苦労した話はこちら

お客さんと話していると感じることですが、人によって海外への経験、興味、教養レベルでフィリピンの印象は大きく違います。下の動画がマカティの中心で冒頭に息子の働くビルも映っています。最近話題の強盗組織のボスやオレオレ詐欺集団の拠点もフィリピンですし、何らかのヘマをやらかした人間が雲隠れするのもフィリピンです。そして物凄いスピードで変わっているので数年前の認識ですらあっという間に古くなります。

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